クールな公爵様のゆゆしき恋情
「アンテス家の別宅に移り暮らしてはいましたが、必要な事はリュシオンが知らせてくれていましたから」

「リュシオン? ああ、お前の護衛をしている赤髪の騎士か」

「リュシオンは私の護衛騎士という訳では有りませんが……」

なぜでしょうか? アレクセイ様がリュシオンをどこか馬鹿にした様な言い方をした気がしました。

アンテス一。いいえ、ベルハイム一の騎士と名高いリュシオンの実力をアレクセイ様が知らないはずは有りません。
このアンテスでリュシオンがどれ程重要な働きをしているのかも。

それなのにアレクセイ様は辺境伯の娘にすぎない“私の護衛“と言い捨てたのです。

アレクセイ様の親族でもある王族の方々さえも配下に是非にと欲しがるリュシオンを、アレクセイ様は評価していないのでしょうか?

疑問に思いながらも、私は今伝えなくてはならない言葉を続けました。

「アレクセイ様と私が結婚しなくても両家は良好な関係でいられると思います。アレクセイ様とお兄様は仲が良いですし、アレクセイ様の妹姫のエステルは次期辺境伯夫人です。末永く良い関係が続くと思うのです。だからアレクセイ様はご自分の愛する方を奥方様にお迎えになるべきだと思います。アレクセイ様のお言葉ならお父様もお兄様も納得すると思います。どうかもう一度考えて頂けないでしょうか」

私が一気に言い終えると、アレクセイ様は視線を落として何かを考えていらっしゃいました。アレクセイ様も悩んでおられるのでしょうか。

邪魔にならない様に黙って返事を待ちました。

しばらくするとアレクセイ様は顔を上げて、私を見据えて来ました。

「この婚約話が無くなったら、お前はどうするんだ?」

「……私ですか?」

アレクセイ様が私の今後の事を気にするとは思いませんでしたから、少し驚きました。
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