クールな公爵様のゆゆしき恋情
「私の事まで気にかけて頂きありがとうございます。ですが私はアレクセイ様との婚約話が無くなっても大丈夫です」

一度決意した事です。

アレクセイ様がフェルザー公爵となり、予想以上にアンテスに近い存在になりましたけれど、それでも私は大丈夫です。

落ち着いたら、私は湖の別宅へ戻り、穏やかに暮らしていけばいいのですから。

そして、アレクセイ様は愛する人と共にフェルザーの領地で幸せに暮らすのです。

アレクセイ様が目の前にいる今はまだほんの些細な事にも傷付き、気持ちが揺らいでしまいますが、遠く離れ顔を合わせなくなれば痛みも消えます。
それはこの半年で実感しているので確かです。

穏やかで優しかった半年の暮らしを思い出し、私は僅かに微笑みました。

その直後、アレクセイ様の低い声が響きました。

「俺と婚約解消をしてろくな嫁ぎ先の無くなったお前は、これ幸いとばかりに騎士の妻にでも納まるつもりか?」

「……アレクセイ様?」

突然、何を言っているのでしょうか。

意味が分からずに戸惑う私に、アレクセイ様が勝ち誇った様に言いました。

「残念だがお前の思う通りにはならない。お前に俺との結婚を避ける術は無いんだからな。諦めろ」

「ですが……」

アレクセイ様はどうして諦めてしまうのでしょうか?

昔、まだ私にも笑いかけてくれていた頃のアレクセイ様は、どんな事にも立ち向かう強い気持ちを持った人でした。
それなのに、今は仕方なく不本意な結婚に身を投じようとしているのです。

悲しい気持ちになりながらアレクセイ様を見つめました。

アレクセイ様はソファーから立ち上がると、私をじっと見下ろしました。

「ラウラ、お前は俺と結婚するんだ」

そう宣言するアレクセイ様の瞳は、私よりもずっと沢山の痛みと悲しみを湛えている様に見えたのです。

部屋を出て行くアレクセイ様に、私は声をかける事が出来ませんでした。
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