クールな公爵様のゆゆしき恋情
「ほら」

アレクセイ様はレモンソースかけの、大きな方のお魚を私に渡してくれました。

「遠慮しないで沢山食べろ。ラウラの食べる所を見るのは楽しいからな」
「……私の食べる姿が楽しいのですか?」
「ああ、見ていて飽きない」

年頃の令嬢に対して、”食べる姿が楽しい”なんて、褒め言葉ではありません。人によっては失礼だと怒ると思います。
数日前から態度が変わって優しくなったと思っていましたが、どうやら女性としては見て頂けていない様です。

とても複雑な気持ちになりました。アレクセイ様は、そんな気持ちで私と結婚など本当にする気なのでしょうか?

釈然としないながらも、アレクセイ様の強引な勧めと、目の前の美味しそうな香りの誘惑には勝てずに、私は考える事を止めてお魚を頂く事にしました。

「……美味しい!」

思わず感嘆の声を上げてしまいました。それ程このお魚は美味しかったのです。

ふんわりと柔らかな身に爽やかな酸味のソースがとても良く合っています。

「美味いか?」

アレクセイ様がクスリと笑ったので急に恥ずかしくなってしまいました。
魚が美味しかったからって高い声を出すなんて……こんな事だから、見ていて楽しい、なんて評価になってしまうのです。

今更な気もしますが、フォークを置き、気持ちを落ち着かせて、答えました。

「とても美味しいです。アレクセイ様も召し上がってみてください」

「……ああ」

アレクセイ様はなぜか少し残念そうな顔をしました。

「あの、どうかなさいましたか?」

「何が?」

「がっかりした様子に見えましたので」

余計な詮索をするなと言われてしまいますでしょうか。

お怒りがあるかもしれないと身構えましたが、アレクセイ様は、真っ直ぐ私を見つめて言いました。
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