ツンデレ社長の甘い求愛
そう思って声を上げたけれど、手で制止されてしまった。

「別に女だからやるとか、古い風習は嫌いだ。それに俺がやった方が綺麗によそえると思わないか?」

「……なにをサラリと失礼なことをおっしゃっているんですか?」

「真実だろう」


取り皿に盛り付けながら「クククッ」と声を押し殺して笑い始めた社長。

本当に今日はもう意外な一面を見せられてばかりだ。

戦略会議では敵対心剥き出して挑んでいた相手だというのに、今はどうなの? これ。

仲良しな上司と部下じゃない?


「じゃあお言葉に甘えてお願いします」

「その代わり、ちゃんと食って味の採点しろよ? 男と女では味の好みも違うしな」

「はい、了解です」

とことん仕事人間なお人だ。


それから社長と食事を取り、味や接客態度のチェックをしつつ、なんだかんだと充実したアフタータイムを過ごしていった。

社長の意外な一面を知り、この人のことはやっぱり好きではないと実感させられ、彼に優しい顔をさせてしまう彼女の存在があることを知り。


上司として最高に尊敬できると再認識させられたわけだけど……まさか夢にも思わないじゃない?


この日、社長と過ごした、たった数時間の出来事が、私の今後の人生を大きく左右することになるとは夢にも思わなかった。
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