好きになるまで待ってなんていられない
どうして昔の話、急にしちゃったんだろう。
こんな調子で、こんな状況で、数少ない恋愛遍歴を何となく全部語ってしまうのかな…。
恋愛とは違う。
…一番最後のキスは珈琲の香りがした。
『もう今日で終わりにしようか』
そう言われてされた、触れるだけのキスだった。
歳が明けたら三人目の子供が産まれたと聞いた。望み通り女の子が産まれた、って。
きっと、こんな事、してたら駄目だって…思い当たったんだろう。
…馬鹿じゃないの。馬鹿だよ。だったらしなきゃいいのに。
…。
無感情で苦い経験をさせて貰った。
『晩飯、食いに行くか』
事務所でそう声を掛けられる。…。それが今夜の約束。ホントの晩御飯なんか、私とは食べないくせに。
家に帰ったらラップがかけられて用意されてるご飯があるらしい。
遅く帰宅して、愛妻は起きて来てくれる事はなくて。
一人寂しくたって、家で温めて必ず食べるくせに。
そんな事まで事細かく私に話して。なんて奴。
…妬かせて、情熱的な関係を持ちたいのか。
私も…二人共、脳みそ、筋肉で出来てるんじゃないの。
大概馬鹿だ。
あの頃から私の部屋は変わっていない。
ずっとこの部屋に住んでいる。
変わった事は、必要最低限の物だけにして暮らす事にした事。部屋の物を殆ど捨ててしまった事。
社長の物があった訳じゃない。
最初から何もない。
何でもいい。
終わりと同時に何か捨ててしまいたかったんだ。
そのくらいの事しか出来ない自分のままだった。
部屋は部屋。思い出すならどこに居たって思い出すだろう。
だから引っ越さなかった。
今となっては、遥か昔の事になったとはいえ、あの頃、身体に暫く残り続けたモノが、凄く空しく思えて堪らなかった。
どんな思いで社長は私と…。
「このまま?」
ずっと居るの?…帰るの?
「ん?いや、もう少ししたら帰る。いくら隣が仕事場でも、一度帰って仕度して来なくちゃ、何も無いからな」
着替えを置いてあるとか、そんなのは無いんだ。
職場は職場って事なんだ。ちゃんとしてるんじゃない?
「あんたが眠ったら帰ろうと思ったんだけど。眠れないのか?」
「…ドキドキして眠れない」
…嘘じゃない。貴方のせい。正直な気持ちを口にした。
色んな事が頭を過ぎっていた事とは別。
いつの間にか、こうして居るけど、こんな事…、ドキドキしない訳が無い。
「そうか…。じゃあ、気絶する程キスして見るか」
「え、フ、フフ。それはいくら何でも無理」
「…解らないだろ?…して見なきゃ…」
「…無、理」
もっとドキドキが増す、だ、け。…ん。