お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
私が働いていた病院でも、入院患者は高齢者が大半だった。雰囲気だけでもと、毎年プレゼントを用意して小さなクリスマスパーティーをやっていた。

サンタクロースに扮した介護職員たちが歌を歌ったり演奏したり、プレゼントを配ったりして、食事もケーキ付きのクリスマスメニューが出されていた。もっとも疾患や加齢により食べられない人もいたのだけれど。

クリスマスが近づくとツリーに飾りを付けたり、事務員も駆り出されて飾りつけを施す。

子供の頃はサンタクロースを待ちわびて、指折りクリスマスまでを数えて楽しみにしていたものだった。

今はどうだろう。先生は何も言わないけれど、奥さんと別居しているようだった。私は傍にいる時間が増えたのに、素直に喜べない自分がいた。

自分でもこの矛盾する気持ちが、わかりかねていた。

先生も私を愛してくれているのはわかる。手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに、気持ちは時々どこかへ行っているような気がしていた。
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