お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
「南国に降る雪って素敵。深海の雪、マリンスノーは知ってるけど」
「ああ。プランクトンの死骸がゆっくりと真っ暗な深海に降るみたいに沈んでいくやつでしょ。確かに神秘的で素敵だね」

「中東やらインドなんかは宗教的にクリスマスを祝ったりしないかもしれないけど、中東だと昔の千夜一夜物語に出てくるんだよ」先生のこういうロマンチックな話を聞くのが大好きだった。

中東に雪は降らないけれど、アーモンドの木は白い花を咲かすんだ。遠くから見るとね、雪が降り積もったように大雪原に見えるんだって。中東のどこかの国の王がお妃のために庭に沢山のアーモンドの木を植えたんだ。

インドも確か春先に咲く山があったんじゃないかな?

朝方まで眠らずに2人して抱き合い、色々な話を聞かせてくれた。この時間も私にとって、とても楽しいものだった。

私は小さい頃から、色々と空想するのが好きな女の子だった。嫌なことがあると自分の空想世界に逃げ込む。現実逃避するわけだが、大人になっても大して変わらなかった。

物語を作ったり、小説を書いたりが好きだった。夢見がちな所があり、いわゆるアダルトチルドレンと呼ばれて、いいように言えば子供のような空想力に長けるものの、悪く言えばいい年して、いい加減に大人になれば?と言われてしまうタイプだった。

先生は、僕もそういう所があるから子供じみているって思わないよ、と私が作った話をひたすら聞いてくれていた。

居心地がよかった。真剣に聞いてくれた男性は先生しかいなかった。先生がいなくなってからも、私は先生から聞いた話を参考に小説などを書いたりしているから、貴重な時間をくれた事を後になっても感謝しているのだった。


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