お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
「ごめんね。明日早いからそろそろ失礼するよ。もう日付変わったしね」
「今日は先生がシンデレラなんだね」
私は先生にキスをする。

鼻スリスリのキスを返してくれた。笑顔になれる魔法のキス。
「すこしだけ時間いい?」
「いいよ。何?」

いたずらっぽく微笑んだ私。先生のスーツの胸元を開けて、その下のワイシャツのボタンを外していく。

なすがままの先生に、私は大きく開けた裸の胸元にキスをして、そこを吸う。
「キスマークつけようかな?なんて思っただけ。嘘よ」私は胸元のボタンを閉じようとした。

「いいよ、つけても」
「えっ?」
戸惑いながらも胸元に唇を押しあて、そこを吸う。
「そんなんじゃキスマークはつかないよ。もっと強く吸わなきゃ」

私は慌てて唇を離す。
「つけても構わないのに」
私はいいの、と首を振った。

クリスマスも日付が変わり、外に先生を見送りに出るとひんやりとした外気に、雪が降る予感がした。

先生の車が見えなくなるまで見送った。
キスマークに私は気持ちを試そうとした。断られると思っていたから、予想外の先生のリアクションに、結局はキスマークはつけれないでいた。

雪よりもほろ苦い気持ちが甦ってくる、それが私の29歳の、20代最後のクリスマスだった。
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