お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~

最後に知る真実の事

先生も私も顔が強ばっていた。助手席に座ったものの、しばらく沈黙が続いた。

私はやっとの事で、「鍵、返すね。もう・・・やめなきゃいけないんだよね」
「詠美ちゃん、僕は・・・」
「先生、赤ちゃんできたんだってね。おめでとう・・・ずっと待ち望んでいたって・・・聞いたの」
「すまない。僕の口から言うつもりだったのに、人伝で伝わるなんて」
「・・・最後に本当の事を教えて。お願い」
「わかった。正直に話すよ」

先生の口から語られた真実の事。

【僕は今から8年前かな、32歳の時に結婚したんだ。妻はまだ24歳と若く働きたいと、共働きをしていたんだ。そして子供がほしいと妻は言い出した。僕もいつかは子供がほしいと思っていたから、彼女に賛同したんだ。

1年過ぎても子供が授からず、夫婦揃って産婦人科に行って調べてもらったんだ。問題は妻の方にあった。卵管のつまりやら、色々とあって授かりにくいと医師から告げられた。

不妊治療を行うことになったんだ。最初はタイミング療法というやつだった。

毎日妻が基礎体温を計り、排卵日を割り出して、それに合わせ、セックスをする。

妻の方は排卵したり、しなかったりで排卵誘発剤を使ったりもあった。ホルモン的な治療で妻の体調が優れない時もあった。

タイミング療法でもなかなか授からなかった。毎月毎月生理が来てしまうと、妻はひどく落ち込んだ。彼女を慰めて一緒に頑張ろうと励まし、最初は僕も前向きになっていた。

しかし、僕の仕事が忙しくなり、指示された日にセックスが出来なかった。すると妻は怒り狂い、僕に当たり散らすようになる。僕はすまないと、妻をなだめるしか出来なかった。
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