お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~

誰にも話せなかった恋

先生と私の関係は、一言で言うと不倫だった。

不倫と読んで字のごとく倫理に反するものだ。まわりにバレるといけない。その思いから今回は友達に話せずにいた。

例外として、上司である事務長に勘づかれていた。やんわりと釘を刺されるだけで、あとは自己責任だとばかりに、ほとんど何も言ってこなかった。

30歳という、微妙な年齢でシングルになってしまった。自業自得だと思った。

今度は人に話せて、相談できるような恋をしよう。

「まだ思いを引きずっているだろうが、これから生きていく中で一瞬の出来事にしか過ぎないからな。後悔はしているか?」

「いえ、これでよかったと思っています。本来あるべき姿に戻っただけですから。それに・・・本当に好きだったので幸せになってほしいです」

「お前も打たれ強いじゃないか」
「・・・そうですか?事務長にはかないませんよ。若い女の子ばかり追いかけて、フラレてもフラレても起き上がる、その強さに脱帽ですよ」

事務長と二人して笑い合った。

いつか先生の事も笑い話にできる。そう確信した。

先生、ありがとう。私本気で愛してた。

だから幸せになってほしい。

新しい家族と過ごす時間を大切に

してね。

私もぼちぼち頑張るから。



< 154 / 184 >

この作品をシェア

pagetop