お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
少し浮かれていたかもしれない。珍しく事務長と事務所で2人だけになった時の事。

事務長に「何かいいことあったのか?」と言われてしまったからだ。

「別にないですよ」
「そろそろちゃんと彼氏作らなきゃなー。松嶋さんは年上好きだからな」

そう。

付き合う、付き合わないは別にして、昔から年上の男性に惹かれる事が多かった。

「大人の包容力って言うんですか?包容力ある人がいいんで、私。一回りとか上とかでも大丈夫です」

「でも、一回り上とかになると独身の男はあまりいないだろ?大抵既婚者か、バツイチだろう」

まさか先生との事バレた?一瞬ヒヤッとしたけれど、

「はー、オッサンになったのかな、俺も。最近さっぱりだよ」

バツイチの事務長が、珍しく弱気なことを言う。

いつもは貧乳地味子とか、飲み会で散々部下の私を話のネタにしている事務長。

そんな事務長だったけれど、「いつも飲み会で、松嶋さんに話題をその場の流れで持っていくのに、うまく返してくれるから場も盛り上がるし、助かるよ」と、一応は労いの言葉をかけてくれている。

正直、内心ムカつくこともあるけれど、大半は慣れっこになっていた。

「結婚は懲りたって言ってましたけど、彼女はやっぱり欲しいんですか?」

「まあね」事務長はそう言い笑った。

前の彼女と半年ほど前に別れてから、なかなかいい雰囲気になる女性がいないと言う。
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