お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~
秘密のタワーマンション
私達の逢瀬は

ほとんどがこの場所で行われた。

先生の【秘密のタワーマンション】の部屋・・・。

はじめてのセックスが欲しくても

それは、はじめてのキスより遠くて

何度も「ダーメ。そんなんじゃあげれない」

何もないまま、

何度、部屋のソファーで抱き合って朝まで眠っただろう。

はじめてのセックスもこの場所で、

私の誕生日も

クリスマスも

過ごしたよね。

旅行にも行った。

旅行なんて一緒に行けるなんて

思ってもいなかったから嬉しくて、

子供みたいにはしゃいた私を、

優しい眼差しで笑って見てた。

大っぴらに表を手を繋いでは

歩けないけど、

だから貴方は

素敵な演出を沢山してくれて、

そのたびに沢山の愛をくれて、

私も沢山愛して、

私はこの場所で沢山の魔法をかけて

もらった。

貧乳地味子な私は

魔法をかけられて華やかな貴方に

釣り合うお姫様になった

ような気になれた。

会えないときは

会えない寂しさよりも、

次に会える時を楽しみに待てるような

そんなメールや電話をくれたよね。

一度だけした、最初で最後の喧嘩、

沢山笑って少しだけ泣いて

会えない事よりも、

一緒に眠るときに背中を向けられるのが

一番悲しかった。

背中を向けないで泣いてしまうと、

ごめんね、もうしないからねって

強く抱き締めてくれた。

貴方は時々私を見ないで虚ろな視線で、

私を通り越して、そこにはいない

何かを見ていた。

お口にクダサイ。

過去の恋愛のトラウマから、

男性の体液のあの独特の青臭さが

大嫌いだった。

けれど、

貴方を残らず飲み干したいの・・・。

もっとお口にクダサイ。


1年ほど過ぎて意外な形で私達は

終わりを迎える事になった。

女の勘だろうか。

貴方は気づいていなかったけど、

私はこの恋に終わりが近づいて

いるのだと、気がついた。

その時はじめて知った。

紫陽花の花は綺麗に散ることなく、

そのままの姿で枯れていくのだと

言うことを。

最後に私は全てを知ることになる。

貴方の口から

全てを。

貴方の体液を、無意識にあれほど欲した

理由は全てここにあった。

愛妻家だと言われていた先生が、

私と関係を持った理由、

「貧乳地味子」の私を選んだ理由、

キスゲームにセックスを焦らした理由、

先生が抱えていた秘密を・・・。

もう終わったのだと、

私達が始まる前の関係に戻ったのだと

揖屋でも思い知らされた。

挑発前の、私達がはじまる前の

フレグランスに貴方が戻した時に。

二度と私の好きな香りは鼻先を掠める事はなかった。

愛してた。

色んな事を教えてくれたね。

ねえ?最後に教えて。

先生、貴方を忘れられる魔法を教えてよ・・・。






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