お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~

「キスより先が欲しいなら、妄想で僕をその気にさせてみせて」

結果として、秘密のタワーマンションの部屋の合鍵をもらった事で、会う時間が増えたのはいいけれど。この場所で過ごす事が多くなっていった。

お盆を過ぎ、夏も終わりを迎えようとしていた。秋の訪れをまだ感じる事はなくても、ここ数年は気がつくと秋になっていた気がする。年々温暖化が進み、四季の変わり目がはっきりしなくなってきたからだろうか。

夏祭りや、花火、今年も行けなかったなと、いつも季節が過ぎてからぼんやりと思う。 

そんな時、夜遅くに先生から電話があった。電話で話せるのは貴重だった。普段はメールでやり取りをしていた。こちらからは、よっぽどの事がない限り電話はしなかった。

私は独り暮らしをしていたアパートにいたけれど、先生はまだ事務所にいた。今度部屋に泊まりにおいで、と言われてドキドキしてたら。

「キスより先が欲しいなら、妄想で僕をその気にさせてね」やっぱり・・・。

愛する貴方は、また意地悪な事を言う。

「妄想をかきたてられるのが好きなんだ」

だからって。

「色気仕掛けは好きじゃないんだ。脱いだり、胸や脚を見せたりしちゃだめだよ。僕の体にも触っちゃだめ。君が自分の体に触るのもだめ。あ、変な声とか出すのもだめだからね」

だめだめ尽くしなんて。何をすればいいわけ?
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