お口にクダサイ~記憶の中のフレグランス~

そして恋は動き出した

先生の纏う香りが、私の好きな香りに変わっていた。思い過ごしだろうか。モヤモヤしたまま数日を過ごしていた。

ある日、ナースステーションから事務所に戻った私はお局様から「松嶋さん、事務長室に今、棚橋先生をお通ししたの。今さっき、外出している事務長から電話があって、病院に戻るのが少し遅くなるって。先生にそれを伝えてくれないかしら」

「は、はい。わかりました」あれ以来先生に会っていなかったので動揺しつつも、事務長室に向かう。

事務長室をノックした。すると中から「はい」という先生の声がした。気持ちの高鳴りを押さえつつ、失礼しますと部屋に入る。

先生はパソコンに目をおとして、データ入力の真っ最中だった。事務長からの伝言を伝えるべく先生の傍までいく。またしても、私の好きな香水のポロスポーツの香りがして、眩暈を覚えた。

事務長の伝言を伝えると、わかった、ありがとうと言い、またパソコンに目をおとした。先生は【何も】言わない。

私は意を決して、こう言った。

「先生、香水変えましたよね。それラルフ・ローレンのポロスポーツですよね。私好きなんです、その香り」

先生の手が止まった。次の瞬間顔を上げた先生はこう言った。

「知ってるよ。君が好きな香りだって。だから変えたんだ。君の好きな香りに。・・・自意識過剰かもしれないけど、君はずっと僕を見ていた」








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