ムーンライト・テンプテーション ~つきあかりに誘われて~ 
「俺らケンカしてねえぞ」
「えぇ、してませんよ」
「それに、周りに人いるぞ」
「いいじゃないですか、人いても。私、望月さんにキスしたい」
「あぁ?キスしてえならすりゃいいだろ」
「届かないんです!立ってると!今はヒール靴も履いてないから余計届かないの!」

俺は密かに「ったく」と呟くと、ちっちぇえ明里の背に合わせて屈んで、こいつの唇にキスしてやった。
つわりのひでえ俺の妊婦を怒らせるわけにはいかねえしな。

「・・・いいか?これで」
「・・・はぃ」
「じゃあ行くぞ」

差し出した俺の手を、明里がそっと繋いだ。
いいな、この感触。
柄にも年甲斐にもなく、そんなことを思っている自分に内心驚いているが、もちろんおくびにも出さなかった。

「望月さん?」
「ん」
「・・好きです」
「・・・ああ」

やっぱ、こいつのことは手放せねえや。

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