ムーンライト・テンプテーション ~つきあかりに誘われて~ 
それは社内で偶然会った望月さんによって、突然知ってしまったことだった。

「望月さん!おつかれさまですー」
「おう」
「現場行ってたんですか?」
「ああ」
「そう言えば望月さん、再来月で退職されるって聞きましたよ」
「ああ」
「転職?ですよね!もちろん」
「ああ。建設会社にな」
「ふーん。そうですか・・やっぱり住宅専門なんですか?」
「いや。主に神社や寺とか建てる。大工には変わりねえんだがな。ま、他県だから、都木(つき)と会うことももうねえだろうな。達者でな」
「そんなっ!退職されるまで、まだ1ヶ月半はありますよ」
「次いつ会うか分かんねえだろ?」

そう言った望月さんの口角が、ほんの数ミリだけ上向いたように見えた。
ちょっと作ったような、無理して止めてるような・・・。
これが、この人の笑った顔だと気づくのに、結構時間かかったっけ。

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