Open Heart〜密やかに たおやかに〜

「隠れたことが王子に関係のないことなら、構わない。だが、王子に少しでも関係あることなら許さない」

「ゆっ…許さないなんて、行き過ぎじゃあ? 私は、決めたっていいましたよね? シュウちゃんとは別れるって」

「当たり前だ。そういう契約だろ?」
更に近づいてきた山田課長の顔。

「や、山田課長……」
背中がつりそうなほど仰け反る。

もう、これ以上は無理だ。

そう思った時に、扉を開ける音が聞こえてきた。

山田課長の腕に抱かれ、ダンスの途中みたいな状態のままで、扉の方へ顔を向けた。

同じく山田課長も私から扉の方へと視線を変えた。


シュウちゃん……。


扉から現れたのは、シュウちゃんだった。一歩足を踏み入れシュウちゃんは、進むのを止めていた。

私と山田課長の姿に気が付いたからだ。

急いで、体勢を直そうとする私を山田課長は、許さなかった。

「ふん、丁度いい具合に王子が登場してくれたな」
山田課長は、私に視線を戻し鋭い目をして私を見た。

「あんたの本気を見せてくれよ。おそらく、それが王子にとっても一番いいはずだ」

「山田課長……」

山田課長は、私に何をさせるつもりなんだろう。不安がつのる。

でも、私に残された道を進むしかない。今やれることをやるしかない。それしかない。


唾を飲み込み、山田課長を見上げる。

まっすぐに私を見ている山田課長。メガネの奥にある目には、私が見えていた。


「今、ここで、あんたから俺にキスしろ」

「は?何を…」

「早くしろ。王子が俺たちを注目している今しかない」

どうして、キスなんか。

「決定的な場面を見せてやることが、王子の為になる。あんたから俺にキスすることで、あんたが身も心も他の男のものになったと証明してみせるんだ」

証明。
私が他の人を好きになったと、シュウちゃんに見せれば、今度こそシュウちゃんは私を嫌いになるだろう。

そして、今度こそ、シュウちゃんは私から離れていく。

新しくシュウちゃんに見合う人と一流の道を歩む為に必要なら、私は……。


今度こそ、シュウちゃんに嫌われても構わない。


それがいずれ、シュウちゃんの役に立つなら。


体勢をゆっくり直して、改めて山田課長と向き合うように立った。

山田課長の肩へ手を置き、少しずつ踵をあげる。

私がつま先だちになり山田課長を見上げると、山田課長は少し顔を寄せてきた。


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