Open Heart〜密やかに たおやかに〜

それから、シュウちゃんは私にエプロンをつけてくれる。

後ろからハグするようにして、リボンは前で縛ってくれる。
「苦しくない?」
エプロンをつけてくれるときは、必ず、そう聞いてくれる。

「うん。平気。ありがとう」
いつもみたいに肩越しにシュウちゃんを見て、そう答える。


でもね、シュウちゃん。
私ね、本当は、いつも苦しいんだよ。

悲しいとか辛いとか、本当にエプロンが締めすぎてキツイとか、そういう事じゃない。

シュウちゃんといると、自然に胸が苦しくなる。
胸が締め付けられるみたいにキュッとなる。

シュウちゃんが一緒の時も、そうじゃない時も何故かシュウちゃんを思うと、それだけで急に胸が苦しくなる。

そうなると、必ず自覚してしまう。
私はシュウちゃんを本当に心から好きなんだなって。



今度は、シュウちゃんのエプロンを私がつけてあげてから、冷蔵庫に向かう。
野菜室からキャベツやピーマン、人参を取り出す。

毎回、嫌がらずにシュウちゃんは料理も、場合によっては洗濯も掃除だって文句も言わずに一緒にやってくれる。

マメで優しくて、可愛くて最高にカッコいいフィアンセだ。

こんなシュウちゃんが私を好きでいてくれるのは、もしかしたら全部ジョークだったんじゃないかって思えてくる時もある。

私なんかのどこが好きなんだろ。

不安にもなるけど、そこはシュウちゃんを動物的な勘で信じている。



「うっわ! シュウちゃん、なんで千切り?」

「あれ、違ったか?」
回鍋肉に入れるキャベツを千切りにしてしまうシュウちゃんを私は堪らなく愛しいと感じる。

感じているからこそ、また意地悪を言いたくなる。

「付け合わせのキャベツのつもり? 炒めるんだからさぁ〜少し考えたらわかるでしょう? 全くシュウちゃんってば、ココがイカれてるんだから」
言いながら、シュウちゃんの側頭部辺りを指先でコツコツと突いた。

本当は頭頂部を突きたかったが、届かない為に側頭部で我慢した。


昼間のお返しなんだから!


突いたシュウちゃんの頭が横にふらふらと動く所が堪らなく可笑しくて、それでいて堪らなく愛くるしいなって思った。

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