闇喰いに魔法のキス
どくん!
今までで一番大きく心臓が音を立てた。
どんどん体が冷たくなっていくような気がする。
ルオンは真剣な顔で私を見つめながら尋ねた。
「さすがに分かったでしょ?
ルミナだって、兄さんを疑ったことくらいあるんじゃない?」
…ルオンの言う通り、何回も疑うような場面があって
その度にはぐらかされてきた。
思い起こしてみれば、不自然な態度は山ほどある。
嘘を信じるために、全ての疑問を押し込めてきた。
その時、私の脳裏にパーティ会場での記憶がよぎる。
あの時……
黄金の髪に薔薇色瞳のギルが
銀髪で碧眼のレイに見えた。
…あれは、見間違いなんかじゃなかったってこと…?
すると、ルオンが、ふっ、と笑って私を見た。
彼から、目が離せない。
私は、震える声でルオンに言った。
「レイは魔法が使えないはずでしょう…?」
「そんなの、ルミナを騙すための嘘に決まってるじゃん。」
今までの紳士的な話し方とは違う、ルオンの口調。
…これが、ルオン…?
ルオンは、目を見開く私に向かって、何かを差し出した。
彼の手元を見ると、それは透明な小瓶だった。
ルオンは、私に小瓶を握らせると低い声で話し始めた。
「僕の言うことが信じられないなら、これをあげる。」
「これは…?」
「これは、魔力を持つ者しか開けられない小瓶。
これを兄さんに渡せば全てが分かるよ。」
!
…“魔力を持つ者しか開けられない小瓶”…?
小瓶を持つ手が、カタカタと震えた。
これを、レイが開けることが出来たら……
「…じゃあ、話は終わり。
バカ正直に人を信じるのもほどほどにしたほうがいいよ。」
!
ルオンは、ぱっ、と私から遠ざかり
パァッ!と瞳を輝かせた。
「ルオン!待って!!」
私がそう叫んだ瞬間
辺りに激しい風が吹き荒れる。
っ!
ルオンは、私に不敵な笑みを見せ
一瞬で目の前から消えてしまった。
「…ルオン……。」
彼が、私に返事をすることはなかった。
私の手に握り締められた小瓶が
微かに熱を持ったような気がした。