闇喰いに魔法のキス
その瞬間
モートンは机の上の魔法書を、バサバサ!と下に落とした。
流れるように真っ白い大きな紙を机の空いたスペースに広げ、ものすごい速さで古代文字を書いていく。
私とロディが呆気にとられて見ていると
モートンはコンパスや定規を使って魔方陣を描き始めた。
白い紙に浮かんでくる魔方陣は、シンの魔力が私の体から解き放たれた時のものとよく似ていた。
あれは…お父さんの魔方陣…!
カツ…、と紙の上を走らせていたペンを止めたモートンは、じぃっ、と魔方陣を見つめている。
前髪から覗く翠の瞳は、普段のモートンのものではなく
見たこともないくらい真剣な、紛れもない
“魔法学者の瞳”だった。
「…モートン…?」
私は、ぴくりとも動かなくなったモートンに少し躊躇しながら声をかけた。
すると、次の瞬間
モートンが、がばっ!と私に抱きついた。
「ルミナさんっ!あなたはすごいです!!
君のお父さんさえ気づかなかったことを、少し魔法書に目を通しただけでひらめくなんて!」
ぐわんぐわん、と体を揺すられる私は、テンションMaxになっているラドリーに向かって答えた。
「あ、ありがとうございます…っ。」
め、目が回る…!
ぐらつく視界に、“嬉しすぎて、もう死んでもいい”というレベルで笑みを浮かべるモートンが見えた。
ロディは、私をモートンから引き剥がし
彼に向かって声をかけた。
「…と、いうことは、名もなき魔法の魔方陣が解読出来そうってことか?」
!
はっ!としてモートンを見つめると
モートンは体じゅうにエネルギーがみなぎってきたように白衣の袖をまくり上げて答えた。
「はい!必ず、夜までには完成させてみせます!
ラドリーから受け継いだ二年越しの研究が、ようやく完成するんです…!」
「「!!」」
私とロディは、モートンの言葉に無意識に口が開いた。
“夜までには完成させてみせる”…?!
ということは…
レイにかかっているシンのリバウンドが解けるかもしれないってこと?!
先の見えない暗闇の中に、一筋の光が差し込んだような気がした。
モートンは、再びペンを持ち直して反対の手で魔法書を開き、私たちに言った。
「僕は研究室にこもります。
お二人はリビングでココアでも飲んで待っていてください。」
返事も聞かずに作業に取りかかるモートンに私とロディは顔を見合わせた。
ロディは、込み上げる喜びを抑えきれない様子で私に言った。
「当分、俺たちに出来ることはない。
落ち着かないが、今は大人しく夜まで待とう。」
「うん…!」
私は、大きく頷いてロディと共に研究室を出た。
リビングの時計の針は、午後一時を指している。
…夜までは長い。
でも、きっと、モートンならやってくれる。
私は、ぎゅっ、と手のひらを握りしめて
ロディと共にソファへと腰を下ろしたのだった。