闇喰いに魔法のキス
その時、ガロア警部が真剣な表情でロディとモートンの方を見た。
「ロディ=グレイ、及びモートン=グライツ。」
名を呼ばれた二人が、すっ、とガロア警部の方を見る。
ガロア警部は、ふっ、と不敵に微笑んで言葉を続けた。
「お前らは、タリズマンの傘下に入って、捜査に力を貸してもらう。
いわば、“闇ヘッドハンティング”だな。」
「「へ…………?」」
モートンと共に、珍しく気の抜けた声を漏らしたロディは
険しい顔をして、ガロア警部に尋ねた。
「…それって、俺がタリズマン専属の情報屋になって、モートンが研究員になるってことですか?」
「あぁ、ざっくり言えばそうだな!」
「犯罪者を傘下に入れるなんて、違法ですよね?」
「だから言ったろ?
“闇”ヘッドハンティングだって。」
ロディは、想像していなかった事態に、額に手を当てて眉を寄せている。
一方、モートンは前髪をかき上げて心底嫌そうな顔をしていた。
ガロア警部は、二人を見ながら豪快に笑って言った。
「ロディがラルフの件の時、ミラに渡したUSBの中に入ってた情報。ダウトの下っ端どもを叩くのに驚くくらい役立ってな。
モートンには、ログハウスで古代の魔法書の解読を進めてもらいたい。もちろん、結果はすべて本部に報告してもらうぞ。」
“闇”ヘッドハンティングって
上手いこと言ってるけど…!
私は、頭の中を整理しながら、一つの結論に辿り着いた。
…ということは、ここにいるみんなは、これまで通り、同じ街で暮らせるってこと…?
私は、先程までとは違う涙が溢れ出した。
嬉しすぎて、言葉が出ない。
こんなことって……!
その時
ふっ、と真剣な顔になったガロアさんが四人に向かって言った。
「それから、これからお前らのことはタリズマンの監視下に置かせてもらう。
定期的に酒場やログハウスを巡回するから覚えとけ。」
…!
そして、ガロア警部はレイとルオンの方を向いて続けた。
「それと、お前たち。死刑じゃなかったからといって、魔力剥奪も死刑の次に重い刑ってことを忘れるな。
この国は、仕事でも何でも、強い魔力を持つものが高い地位に就くことができる。タリズマンがいい例だ。魔力を剥奪されるってことは、大きな社会的ハンデを負うことになる。」
!
確かに、この国は人間と魔法使いが共存しているとはいえ
国を動かし政治をするのは魔法使いばかりだ。
名高い血筋の魔法使いの中には、魔力を失った子が生まれたら、その子を勘当する家もあると聞く。
…死刑の次に、重い罪…。
どくん、と心臓が鳴った時
レイが、ガロア警部をまっすぐ見つめて口を開いた。
「…魔力なんて、俺には必要ないですよ。
もう、“闇喰いギル”の役目は、終わりましたから。」
…!
その時、レイがゆっくりと私の方を見た。
振り返ったレイの横顔に、ギルが重なって見えた。
…うん。
そうだね。
もう、私には“レイ”がいる。
レイは、ゆっくりと私へ歩み寄った。
ガロア警部が、ぱっ、と瞳を輝かせると
私とレイを隔てていた透明な壁が消え去った。
私が、レイに向かって手を伸ばした瞬間
レイが柵越しに私を抱きしめた。
…もう、絶対離さない。
レイ、大好きだよ……!
確かな温もりが私を包み
最後の涙が、頬をつたった。
第5章*完