箱庭センチメンタル
「どれほど優しい言葉をいただいても、私に返せるものは何もありません。それどころか更に面倒事を持ち込んでしまうのは必至。
それならば、今からでも遅くはありません。私はここを出たほうが良いのではないかと思うのです」
訪れた静寂。
沈黙が、空気を重くする。
「………どこに行くんだよ」
やがて口を開いた真也の声は思いのほか低かった。
「外に出たこともない深窓の令嬢様が、どこに行けるって言うんだ?」
厳しい言葉、強い声。
それらは、私を押し留めるには十分すぎた。
頭は途端に冷静になるのに、体からは抗う力が抜けていく。
一歩もそこから動けなくなる。
命令されることも強制されることも当たり前。
染み付いてしまった習慣は、考えるよりも先に行動の全てを支配する。
否が応でも従ってしまう。
そこに、思考も感情も存在しない。