箱庭センチメンタル



私にそんな症例はない。


はたまた、そうした山場は遠に過ぎて、その事実を覚えていないだけかもしれない。


けれどそんなことはどうでもいい。



大切なのは、この屋敷(せかい)の秩序を乱さないこと。


事を荒立てず、流れのままに身を任せる。


それが正しいあり方であり、絶対の真理。


否定することは許されない。



良い子でいろと命じられれば細心を払うまで。


従順であるべきと言われれば逆らわず。


賞賛されたなら、無感情のままに受け入れる。



私はお人形。


主人の思うままに動かされる操り人形。


飽きられてしまえば、動けもしないただのガラクタ。


動かなくなれば、愛してはもらえない。


見向きもされない、見放されてしまう。



家族という枠から外される。


居場所がなくなる。


何も感じないはずの私が明確に、そして唯一恐れること。


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