箱庭センチメンタル
「この家から、お逃げください」
ここから出ていく。
そんなこと、考えたこともなかった。
立場を弁えれば、不自由などなかった。
そういうものだと割り切れば、何でもできるはずだった。
そうでなければ、やはり私はとうに狂い死んでいてもおかしくない。
そんな私の考えを見透かしたように、優しい彼女は言うのだ。
「否定されて、物みたいに扱われて、敬遠されて、何も思わないわけないです。
そんな事をされて、傷付かない人なんていません」
「ですが、私は——」
「お姉様は何も失くしてなんていません!
本当に全部失くした人なら、誰かのために自分を犠牲にはしません。
お姉様が皐を守ってくれようとするのは、同じような扱いをされないためでしょう?だけど皐は、お姉様に辛い思いはして欲しくないんです」