S系御曹司と政略結婚!?
「それでは、どうぞごゆっくり」
唯一の安らぎだった女将の上品な足音も遠ざかり、まずは乾杯をすることになった。
この3人と乾杯する理由が未だに見出せないが、半ばやけっぱちでグラスを掲げた。
さっきの“S”神野の攻撃で随分ダメージを受けていたのに、新たな敵の出現なんて正直言ってうんざりだ。
「華澄、常に笑顔で居るように言っているだろう。
会社と人の未来を背負う者が負のオーラを出していては覇気が落ちる!」
「……すみません」
おじい様には入社してから事あるごとに叱咤されるようになった。
もちろん怒られる私が悪いことも、仰ることもよく分かる。それらのハードルの高さにも辟易したくなる。
今なんて特に、隣に常に怒鳴り散らすような男がいるのにどう笑顔を作れと……?
「こら、そんな顔しない。涼子そっくりの美人が台無しになるぞ」
「お父様、ひいき目が過ぎますが」
重ねるようにして父も諭してくる。彼の口調はやんわり諭すようなものでも、どうしたって越えられない人の名前を出されると辛い。
ちなみに涼子とは、儚げな美人と評された母のこと。元より入退院を繰り返すほど病弱だった母は2年ほど前に他界した。
愛する父を傍で支え続け、天国へと旅立った母。そして父もまた、今も母を愛して止まないという。
小さな頃から床に伏せる姿を見守り続けた私は、ほんの少しだけ両親を恨んでしまうこともあった。
もうひとり子供を産んでくれたら、私もふたりみたいに愛する人との楽しい毎日を送れたはずなのに……。