S系御曹司と政略結婚!?
床にへたり込んで茫然自失の私に対して、上から蔑むような一笑が降ってくる。
「途端に大人しくなったな。飼い犬に噛まれるのもたまには面白かったけど。
大人しく俺と結婚する外、オマエに選択の余地はない。いい加減に諦めろ」
どこか温かみあるヤツの声が辺りに響き、余計に悲しくなってしまう。……現実を受け入れるしかない、と自覚して。
ツーと頬を伝った涙が絨毯にポタリと落ちては小さなシミを幾つも作っていく。
贅沢な暮らしなんて別に望んでない。普通に衣食住が叶って楽しく過ごせる毎日に憧れていただけなのに。
ただ好きな人と笑い合って暮らせたら、それ以外には何もいらないのに。
そんな私に待っていたのは、夢も希望もない政略結婚。……この結末はあまりにひどい。
仮にも婚約者を“飼い犬”なんて言うようなヤツが相手とか、どこに喜びを見出せというの?
こんな人と一緒になって、どうして幸せな結婚生活が叶うというのよ?
たったひとつの願いはあまりに儚いもので。一生叶えられることはない、と悟るしかなかった。