S系御曹司と政略結婚!?
不意に腕の力を解かれて、反射的にヤツを見上げた。すると両肩を掴まれて距離を置かれる。
向き合ったヤツの瞳が切なさを漂わせているように感じ、反応すら何も出来ない。
色のなさない眼差しに囚われた私は身じろぎもせず、対峙し続けていた。
そんな顔を見てしまうと心配で、やっぱり諦められないよ。……ねえ、どうして?
無言の時が流れたあと、ゆっくりとこちらに整った顔が近づいてきたので、私はそっと目を伏せた。
「……ンッ、」
重ねられた唇はいつでも強引なのに、優しく触れてくる。
やがて緩急のついた口づけに移り、何度も角度を変えては絡みも深まっていく。
キスに慣れたヤツの攻撃に、慣れるのはおろか攻略なんて出来そうもない。
受け止めるのに必死な私の口からは、くぐもった声が漏れてしまう。
軽く酸欠となりかける絶妙な頃合いで唇に開放感が訪れた。
たまに腰が抜けそうになる私を、サッと抱き留めてくれて。
私の呼吸が落ち着くまで、会話もなくそのままでいてくれる。……今日もそうだと思ったのに。
「華澄」
耳馴れた低い声が頭上から聞こえてきた。さらにこちらの返事も待たずに続けていく。
それは私にとって予想外の話が待っていた。