S系御曹司と政略結婚!?
社長から彼女が入社することは事前に聞いていた。
そして、その日も会社に来るからロビーまで迎えるように頼まれていたのだ。
日本有数の名家、有川家。その血を受け継ぐ、ただひとりの令嬢。
どうせ甘やかされた強欲な高飛車娘が来るんだろう。
物見遊山だった俺の予想は、本人と対面して見事に覆されてしまった。
あどけない微笑みと、まっすぐにこちらを捉えて離さない瞳は輝きに満ちていたから。
まだその時は、彼女が自らの運命を知る由もない時だったのだろう。
だが、たった数分の会話をする中で俺の心は固まっていた。
——彼女なら……いや、彼女がいいと。
あの僅かな時間でそう感じさせる何かが、当時の華澄にはあったのだ。
半年後に入社が決まっている、華澄との再会を心待ちにしながらその日は別れた。
しかし、年度が変わって遂に再会を果たした彼女はまるで別人だった。
純真無垢で明るさに満ちていたあの笑顔は消え去り、その瞳には翳りまで見えた。
まるで行く末を諦めたような顔つきで、明らかな作り笑いを浮かべているのだ。
目の前にあるすべてが、かつての彼女の魅力を失わせて。黙って受け流す態度も然り、まるで気に入らなかった。
再会を待ち詫びてきた分、募らせたこの気持ちはどうすればいい……?
だから素の俺が出たのかもな。——人形と化した、偽りの華澄に対しては。