S系御曹司と政略結婚!?


「時間だ、早く行くぞ」

「あっ、うん」

食洗機のスタートボタンを押してバッグを掴むと、急いでリビングをあとにする。

黒のパンプスに足を沈めて立ち上がると、ヤツこと和也が玄関扉を開けて待っていてくれた。

「ご、ごめんね」

ついて出るのが謝罪の言葉というのも直したいけど、長年のクセは簡単に抜けない。

「ああ別に」

相槌を返してくれるようになったけど、いつものような辛辣な言葉は発しない。


オートロックの扉を閉じると、ふたり並んでエレベーターホールに向かう。

要求してるみたいで嫌だけど、これはやっぱり変!最近の和也の様子は特におかしい。

玄関先に横付けされていた車に乗り込むと、到着までずっと無言が続く。


告白し合ったあの夜から、ずっとこんな調子が続いている。

もちろん気持ちを確かめ合った割には、夫婦らしさなんてゼロ。

罵倒なりとも普通に話しかけてくれたのに。今は私のほうが話し掛けると曖昧な返事をするだけ。

キスだって毎日されていたのに、それすら一切なくなった。

いや、これだと私が欲求不満じゃない?でも、ヤツの毒牙に掛かったのかも……。


暫くして社屋に着き、私たちは共に車を降りて正面玄関を潜り抜ける。

「おはようございます」

今日も恒例の挨拶で1日がスタート。どちらも笑顔の受付嬢に挨拶を返し、並んで歩いて行く。

朝のやり取りだってそう。ヤツが私を待ち構えていた頃がやけに遠く感じてしまう。


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