S系御曹司と政略結婚!?


並んで歩く私たちの前に受付嬢の浅川さんがカウンターを抜け出し、こちらまで駆け寄ってきた。

小柄で可愛いらしい雰囲気の彼女は、男性社員や取引先の方からも人気が高いのだとか。


「毎朝おふたりを一度に拝見出来て幸せですぅ」

甘なで声にも騙されませんよ?……目線が私の隣、ただ一点に注がれてますからね。


しかし、相手は超がつく二重人格者だ。彼女に最上級の笑みを返してこう言った。

「こちらこそ皆の笑顔に迎えられて一日の活力を貰ってるよ、ありがとう」


自分の長所を分かりきっていて、それを余すところなく行使してしまう。……私以外にね。

さっきの発言だって、浅川さんに向けているようで違う。

カウンター越しに熱い視線を送ってくる受付嬢全員に対して言ったのだ。

ヤツの脳内には、無駄なく一瞬で人を虜にできる方式が存在しているらしい。


いつもの光景を冷静に分析していると、コツコツと一定のヒール音がロビーに響き始めた。

私にとっては耳障りな不協和音。何より苦手なのよ、このヒール音の主(あるじ)が……。

「社長、おはようございます」と、主は深々と“ヤツだけ”に深々と挨拶する。

名ばかり副社長の私は、彼女にとってフレームアウトの対象物らしい。


「山内(ヤマウチ)さんおはよう、態々すまない」

ここでも二重人格者は、爽やかな笑顔でヒール音の主にも挨拶をするのだ。


< 76 / 123 >

この作品をシェア

pagetop