S系御曹司と政略結婚!?
会社からさほど時間もかからず、かわむら屋に到着。すると、私の昔をよく知る大女将に笑顔で迎えられた。
大女将と談笑しながら廊下を進んで行く。そして通された部屋は、有川の家が贔屓にする個室だった。
「……やっぱり、私なんかが良くないですって!一介の運転手がこんな超高級店って……」
品よくまとめられた和室をキョロキョロ見渡しては、ずっと怯えている西川さん。
「もう、何言ってるんですか!いつも迷惑かけてるし、鋭気を養って貰いたいの。ね?井川さん?」
西川さんの言葉を強く否定したくて、井川さんに同意を求めたのにその相手を間違えたらしい。
「え……でも、私までよろしいのでしょうか?あ、もの凄く今さらですね」
彼女の方も恐縮しきりで答え倦ねている。その姿は小動物そのものだ。
未だに怯える西川さんと、謝り癖を持つ井川さん。——2人はやっぱり、私以上のM気質かも……?
「でも、これは私の我が儘に付き合ってると思って?これからも一緒にお願い……!」
両手を合わせてふたりにお願いする。ひとりで食べるより、誰かと楽しく食べたいからと。
「副社長っ、どうぞ頭を上げて下さい!そんな事をされたら」
井川さんはしどろもどろになりながら、私に頭を上げるように言ってくる。
「そ、そうですってっ!副社長がそう仰って下さるなら……、私こそ引き続きよろしくお願いしますっ!」
意を決したように立ち上がった彼は、膝につくくらい深く頭を下げている。
「ありがとう……、こちらこそ宜しくね」
M気質の私はやっぱり謝りたくなったけど、この中の長として?お礼に留めたの。
場が和んでからは運ばれてきた美味しい料理の数々に舌鼓を打った。
就職してから初めて、ランチタイムが幸せなひと時に思えたの……。