記憶は私に愛をくれない。
「え、それは……。声かけようとしたら後ろから久代ーって呼ばれたみたいで話せなかった。」


って言った瞬間、安堵の表情を見せる夏恋と安奈。


どうしたのだろうと首をかしげた時……、


「おーーい、邪魔~になってまーす。」


背の高い真っ黒の短髪の男子が教室に入ってきて思わず彼の腕を掴んでしまった。


「陸……。」


驚いた表情をする彼が言ったのは、


「――、ごめん、誰?」


信じられない言葉だった。


どういうこと??と、安奈と夏恋を見るが、2人は悲しそうな目をして俯いた。


「私のこと、覚えてないの??」


「もしかして、火事の前に出会ったことある人??それならごめん、俺、記憶がないんだ。全く。」


私が掴んだ左手じゃない方の手で恥ずかしそうに頭を掻く彼を見て、


手を離さずにはいられなかった。
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