エースとprincess
「峰岸さんのことはもう泊めないでほしい」
「解決済みだから心配いらない。ほかは?」
「今日みたいに奔走してくれるのは嬉しいけど、人を喜ばせる才があるのかもしれないけど、他の女の人にも同じことをやっているのなら、正直、百パーセント嬉しいとは言えなくって。他の子のために瑛主くんが動くのは……嫌」
ふっとなぜか笑われた。
「俺は姫里のことでしか画策したくない。面倒くさがりだしね。あとは?」
「職場の机まわり。整理整頓しないといつかでっかいヘマをやらかすと思う」
「ああ、うん。はい」
くすくす笑っているけど瑛主くん、誰の話だと思ってるの。もっとも、オフに仕事の話を持ち出した私もルール違反だけれど。
「あとひとつ。ミント水はもう、終わりにしてほしい」
そもそも私が告白したというのに、これって流れとしていいんだろうか。私の『好き』は聞き流したいくらい重かったのだろうか。聞かなかったことにして、ただの仕事仲間に戻れる道を作っているとか——?
「ミント水? ああ、ベランダで育てていたミントの」
瑛主くんはベランダを確かめに行き、私を手招きした。見るとそこには枯れて茎だけになった植物があった。
「一応処分しておく。ハーブは根が強いから、この状態からでも生えてくることが多いんだ」
「峰岸さんが育てていたのでは? ミント水も」
「俺のだよ。ミント水も……これはちょっと恥ずかしい話になるんだけど」
瑛主くんが地方から出てきたばかりのころ、偶然立ち寄ったカフェで出されたお冷やがミント水で、さすが都会だと感動したのだとか。それを自宅でも真似するようになり、ペパーミントがいつまでも鉢植えにあるものだからなんとなく続けていたところ、峰岸さんが数回一緒に飲んだ……というのがことの真相だった。
あの人、その数回をあたかもオリジナルネタのようにブログ公開していたわけか。