エースとprincess
瑛主くんが室内に戻ってからも私はベランダにいた。手摺りに両手を置いて空を見あげる。小さな星が輝いている。
振り返るとソファに座った瑛主くんが穏やかな目をして私を眺めていた。言葉はなくとも表情だけでそばに行くことを許された気がした。
尋ねもせずに真横に座る。瑛主くんがさらに詰めてきて肩を抱かれた。
なにも喋らないまま時間がたち、私は観念して瑛主くんの側を向いた。さっきからずっと頬のあたりでひしひしと、注がれる視線を感じてはいたのだけど、こう、踏ん切りがつかなくて身動きが取れなかったのだ。
気のせいではなく、瑛主くんはちゃんと私を見ていた。私が戸惑っているあいだも私のことばかりを考え、見ていてくれたのだと思って胸がじんとした。
漂う空気が甘くて張りつめていてとても苦しい。ひと思いに破ってくれたらいいのに、と感じはじめたそのとき、瑛主くんの唇が「好きだよ」と動いた。
「好きだよ。姫里」
私は瞬きを繰り返した。呪縛が解けるように指先が軽くなり、瑛主くんの服をつかんだ。本当に、と聞くみたいに。
答えはなかった。でも伝わっていた。私たちはどちらからともなく近づくとキスを交わした。