エースとprincess
 リビングに戻ってからも失礼な物言いは続いた。

「姫里ってさ、入社した年の宴会でもおもしろかったなー。親切心からだったんだろうけど、俺と一緒にカラオケ歌ってくれて。頼みもしないのに強引に」

「またまたー! 私、瑛主くんとなんか歌ってないよ。そんな逆ナンみたいなことするはずが」

「新入社員は歌うの断れない空気、漂ってたじゃん。いち早くそれを読んで、姫里がハイって挙手して、ほらいくぞってグイグイきて」

「……違う人と勘違いしてんじゃないの?」

「本当に記憶にないの?」

 そこでトーンダウンされると後ろめたい。私だけが忘れているのなら申し訳ない。だって、覚えがないものは覚えがないんだ。一応、思い出す努力はするけれど。


 入社した年の宴会。カラオケがあったのは温泉旅館で一泊した社員旅行じゃなかったか。紅葉はほとんど終わっていて枯れ落ち葉状態、肌寒くて小雨がちらついているそんな日。宴会場には小さなステージがあって、そこから見おろすとたくさんの笑顔がこちらに向けられていて、うれしくなって私はもっとはりきっちゃって――。あれ?

「いたわ。いたね」
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