エースとprincess

「姫里、さん」

「は、はい」

 取ってつけたようなさんづけ。にわかに感じるふたりの温度差。なにを言われるのかどぎまぎしてしまう。
 はあ、と瑛主くんは露骨にため息をつく。

「いい子だから、誰にでもこういうことするのはやめようね」

 私はアイスを持った手を膝に置いた。まず、こういうことの指すところがよくわからない。一緒にアイスを食べること? 食べさせあいっこ? からかおうとしたのを根に持っている? でも未遂に終わっている。

「こういうことって?」

「こういうことだよ」

 瑛主くんは腰をあげると正面にまわり、ベッドに両手をついて、座ったままの私を腕のなかに閉じこめた。瞳は食い入るように私を見つめている。普段の強い眼差しに急速に漂いはじめる色香。思わず仰け反る私。
 耳に瑛主くんの髪がかかり、首筋に吐息が触れたかと思うと肩口に熱を感じ、目だけを向けるとちょうど瑛主くんの頬が離れるところだった。膝も、閉じていたのに荒々しく片膝で割られている。簡単に、強引に、のしかかるように迫られていた。

 かあっと顔が熱くなり、ろくに声も出せないまま、私は後ろへ這いずるようにしてベッドの奥へ逃れた。ベッドのうえにいるのだから逃げたことにならないのかもしれない。胸元で拳をぎゅっと握りしめた。心臓が狂ったように暴れ、壮絶な音を刻んでいる。このまま狂ってしまそうだった。
 原因はこの人、瑛主くん。なのにその瑛主くんから目を離せない。

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