エースとprincess

 席を外すねと瑛主くんにひとこと断りをいれて、デッキに移動する。壁にもたれながら、ブログの続きを読もうとした。ところが新幹線はトンネルに入り、接続が途絶えた。嫌な予感を抱えたまま、回線が戻るのを待った。楽しむ気持ちはすっかり消えていた。
 瑛主くんの強ばった表情が気になって仕方ない。あんなに硬い顔つきをすることはそうそうない。過去の彼女なら、なにも気に病むことはないはず。なのにどうしてこんなに胸騒ぎがするんだろう。

 また会いましょう、と峰岸さんとは展示会場で言って別れた。社交辞令とは思えなかった。
 わっと窓の外が明るくなりトンネルを抜けた。私は“ミント水”の記事を読み込んだ。
 

“ミント水はフレーバーウォーターが流行る前からやってた”
“レモンやオレンジも試したけど、私はこれだなあ”
“すっきりリフレッシュできる気がして大好き”
“簡単だから試してみてね”
“あれっでもこれ前にも書いたっけ?”
“ステマじゃないよ(笑)”


 美容カテゴリーを追っていて見つけた記事。書き込みは六年前だ。
 なんでもない書き込みのはずなのに、私を落ち込ませるには十分だった。

 どうしてそれを、瑛主くんは、今でも続けているの?

 どす黒い感情が内側を占めていく。心臓がどくどくと不安に満ちた鼓動を刻んで、目のまえがくらくらする。立っていられなかった。壁づたいにしゃがみこむ。
 別れても会えば顔に出るくらいの、本気の恋。

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