傷痕~想い出に変わるまで~
光は感情を押し殺した声で一方的におやすみを告げ、電話を切ってしまった。

通話の終わったスマホを枕元に置いてため息をつく。

間違えて電話したのも相手を確認せずにしゃべりだしたのも全面的に私が悪い。

よりによって門倉への電話を光にかけてしまうなんて。

門倉の冗談を交わそうと余計なことまで言ったから、更に話がややこしくなってしまったんだろう。

ベッドに倒れ込んで目を閉じた。

光の顔と門倉の顔が交互に浮かぶ。

私はどうしたいんだろう?

二人の男の人から同時に好きだと言われたことなんてなかったから戸惑う。

光のことは大好きだったから結婚したし、お互いの気持ちが離れてしまったから離婚した。

お互いに傷付いて傷付けて、心に深い傷痕が残った苦い経験だ。

今の光のことはどうだろう?

優しくされると不安になるなんて昔はなかったのに。

じゃあ、門倉のことは…?

もちろん嫌いじゃないし、気取ったり飾ったりせず言いたいことを笑って言い合える。

最近は一緒にいると安心したりドキドキさせられたり。

好き…なのかな?

ただ居心地がいいだけなのかな?

自分の気持ちもわからないのに、どうやってその境界線を越えればいい?

どちらか一人しか選べないのはわかってる。

だったら選ばれなかったもう一人はどうなるの?

……わからない。

何もかも忘れて、とりあえず眠りたい。


眠りの淵で浅い夢を見た。

まだ結婚したばかりの頃の光と私が二人で笑っていた。


大好きだよ。

ずっと一緒にいようって約束したもんね。

隣には誰もいないから、安心して。





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