傷痕~想い出に変わるまで~
違いますとしらを切ろうとした瞬間。

「おぅ篠宮、サボってばっかいないで仕事しろよ!」

無駄にデカイ男が無駄にデカイ声で無駄な言葉を私に向かって言い放った。

門倉め!!

最悪のタイミングだ!!

小銭入れを握りしめて怒りに肩を震わせている私に気付かないのか、門倉は涼しい顔をして自販機に小銭を入れている。

光は私の手にタバコケースを握らせて、もう一度私の顔をじっと見た。

「篠宮…瑞希だよね?」

さすがにもう言い逃れることはできなさそうだ。

私は観念してうなずいた。

「…元気だった?」

「…うん。」

ぎこちない会話をしている私たちを横目に、門倉は不思議そうな顔をしてコーヒーを飲んでいる。

門倉、頼むからあっち行って!

「ここ、瑞希の勤め先だったんだな。知らなかった。」

「……うん。」

転職も転勤も私は一度もしていないのに、光は私の勤め先の名前さえ知らなかったようだ。

これでも一時は妻だったのに。

「今、ここの飲料メーカーに勤めてて…今週からこの会社の担当になったんだ。」

「……うん。」

そんな偶然ってあるの?!

無駄に顔を合わせたくないから、これからは出来るだけ自販機には近付かないようにしよう。

「瑞希…。」

さっきからなんとか平静を装っていたけれど、いい加減もう限界だ。

息がうまくできなくて胸が苦しくて、心臓が壊れるんじゃないかと思うほど激しい動悸がしている。

これ以上は耐えられそうにない。


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