傷痕~想い出に変わるまで~
その日の夜、いつもの居酒屋。

いつも通りビールを頼み適当に料理を注文して、乾杯もなくビールを飲みながら食事をした。

ある程度お腹が満たされると、門倉は生ビールのおかわりを二つ注文した。

そこまでは本当にいつも通りだった。

違ったのはここからだ。

「…で?昼間のあれが篠宮の元旦那か?」

「うん…。」

門倉はオイルライターでタバコに火をつけて煙を吐き出すと、スーツの内ポケットから取り出した一枚の名刺を私に差し出した。

「勝山 光…って…。えっ、なんで門倉が?!」

名刺にはあの自販機の飲料メーカーの社名と光の名前。

その下の方の余白には携帯電話の番号が手書きで書き添えられていた。

見覚えのある懐かしい光の文字だ。

まじまじと名刺を眺めていると、門倉がオイルライターの蓋を何度も開け閉めしてカチャカチャと音を鳴らした。

これは門倉が何か考え事をしている時の癖みたいなものだ。

私が顔を上げると門倉はライターの蓋を閉めてテーブルの上に置いた。

「篠宮がいなくなった後、少し話した。」

「えっ…何を?!」

「話したってほどでもないか。知り合いかって聞かれたから隣の課の同期だって答えたら、名刺渡してくれって頼まれた。会って話したいことがあるから連絡くれってさ。」

「会って話したいこと?」

離婚についてはすべて話はついてるはずだけど。

それにもう5年も前のことだし、今更話すことなんてあったっけ?

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