傷痕~想い出に変わるまで~
ビールを飲みながら考えたけれど、私には思い当たる節が見当たらない。

「なんで急にそんなこと…。」

「さぁな。俺もそこまでは聞いてない。」

光が何を話したいのかはまったく見当がつかないけれど、話をするために会いたいとは思えない。

「話だけなら電話でもいいかな。会うのはやっぱりちょっと…。」

「なんで?会えばいいじゃん。」

門倉は事も無げにそう言うけれど、私は光と会うつもりはない。

「だって…。昼間のあれを見てたならわかるでしょ?」

「俺は篠宮が禊を終わらせるいい機会だと思うけどな。」

「…どういう意味?」

「俺の予想では、今のままだと篠宮の禊は一生終わらないと思う。離婚するにはそれだけの理由があったはずなのに時間が経つにつれて篠宮は元旦那にどんどん縛られていってる気がするんだ。」

そう言われると確かにそうなのかも知れない。

離婚してすぐの頃は心の中で、妻の留守中に浮気相手を連れ込んだ光をこれでもかと言うほど責めたし、ノコノコ上がり込んだ浮気相手のことも散々なじった。

だけど門倉と禊をするようになってからは、仕事に夢中で光を気遣えなかった自分ばかりを責めている気がする。

そして光と過ごした幸せだった頃のことを思い出しては泣いた。

もしかして私は光との間に起こったイヤな部分をなかったことにするために、本当に好きだったことや幸せだった頃のことばかりを思い出して、光を美化しようとしてるんじゃないか。

確かに光のことは本当に好きだった。

けれどもう過去のことだ。

いい加減光へのいろいろな想いは断ち切らないといけないのかも知れない。


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