傷痕~想い出に変わるまで~
懺悔
門倉との電話を切って席に戻ると、光が所在なさげにビールを飲んでいた。

本当はあのまま逃げてしまいたかったんだけどな。

そんなことできるわけもないし、仕方なく自分の席に着いた。

「あ…電話、終わった?」

「ああ…うん。」

見ればわかるようなことをいちいち聞くということは、光も相当落ち着かないんだと思う。

こんな風に光と二人で向かい合って座るのは何年ぶり?

離婚する時も向かい合って話したりはしなかった。

光が離婚届と結婚指輪を置いて出ていった後、電話で離婚の話を済ませたから。

よくよく考えたら、光の様子がおかしくなってからは向かい合って食事をすることもしなくなった。

いつも私の目を避けて顔を合わせないようにしていたんだと思う。

5年間の結婚生活のうちの後半の2年ほどは、夫婦関係も冷えきっていた。

それなのに今頃になって会って話したいなんて、光は一体どういうつもりなんだろう?

さっきから二人とも黙り込んだままうつむき加減でビールを飲んでいる。

沈黙が重くて落ち着かない。

話があるって言ったのは光なんだから、さっさと切り出してくれればいいのに。

ビールを飲みながらチラリと光の様子を窺った。

ちょっと痩せた?

髪形変えたんだ。

あの頃より少し大人っぽくなった。

5年近くも経てば当たり前か。

左手の薬指に指輪はしていない。

再婚はしなかったのかな。

あの人とはまだ続いているんだろうか。


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