傷痕~想い出に変わるまで~
しばらく歩いたところで光が追い掛けてきて私の腕を掴んで引き寄せた。


“ごめん、やっぱり別れたくない。瑞希が好きだから”


光は今にも泣き出しそうな顔でそう言った。

そして私の泣き顔を見て光まで泣き出した。


“ごめん、瑞希。泣かせてごめんな。俺には瑞希しかいないよ。好きだからずっと俺のそばにいて”


嫌われたわけじゃなかったと安心して、好きだと言ってくれたことが嬉しくて、また涙がこぼれた。


“仲直りしてくれる?”


光は少し照れ臭そうにシャツの袖で涙を拭いて、私の涙を指先でそっと拭った。


“私も光が好き。ずっと一緒にいたい”


しゃくりあげながら素直な気持ちを伝えると、光は優しく頭を撫でて手を繋いでくれた。

手を繋いで光の部屋に戻り、好きだよと言いながら何度も何度も仲直りのキスをした。

あの頃は喧嘩しても仲直りして、また手を繋げた。

好きだから一緒にいたいという単純な理由だけで、お互いに意地を張ることをやめて素直になれたんだ。

だけど今はもう何もかもが違うから。

腕を掴んで引き留められても、何度ごめんと謝られても、もう二度と手を繋いで同じ道を歩くことはできない。


ちゃんと向き合おうとしなかったのも、自分のことでいっぱいになりすぎて逃げてばかりいたのも、何も言わなかったのも光だけじゃない。

私も同じだ。

私もずっとうまくいかないのを光のせいにして、言いたいことも言えないまま目をそらしていた。

私たちの関係が壊れたのは光だけのせいじゃない。

だけど私は、光に一度も謝れなかった。

どうして私は素直になれないんだろう?





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