傷痕~想い出に変わるまで~
門倉は険しい顔をしてジョッキのビールを飲み干した。

「篠宮、やっぱ元旦那ともう一度ちゃんと会った方がいいんじゃないか?」

「…なんで?私はもう会いたくないよ。今更どうしようもないことばっかり聞きたくないもん。」

「それだよ。今更聞きたくないって思うのは篠宮が元旦那とのこと吹っ切れてないからだろ?お互いを好きだった頃の昔のままでいて欲しいとか思ってるんじゃないのか?」

「…そうなのかな。」

光とはもうとっくに終わったはずなのに、私は今もまだ光に何かを期待しているって、そういうこと?

期待しているつもりはないけど、もう会うこともないと思っていた光に何度も謝られて、あんな風に必死で引き留められて、昔のことを思い出してしまったのは本当のこと。

「昔ね…喧嘩したらいつも光が先に謝ってくれたんだ。私はなかなか素直に謝れないから、私が謝らなきゃいけない時でも必ず光が先にごめんって言うの。あの頃はそれで仲直りできたんだけどね。離婚する時、光は謝らなかった。それってもう仲直りする必要がなかったからなんだよね。」

門倉は店員を呼び止めビールのおかわりを二つ注文して、運ばれてきたビールのひとつを私に手渡し、タバコに火をつけた。

それからタバコの煙を吐き出してビールを少し飲むと、私の顔をじっと見た。

「それがしばらく経って謝らなきゃと思ったってことは…篠宮に許してもらいたい理由があるんだろ。」

「許してもらいたい理由?」


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