傷痕~想い出に変わるまで~
ケースからタバコを取り出して口にくわえると、門倉がオイルライターで火をつけてくれた。

「あんまり緊張すんな。大丈夫だ、俺がいるから。」

「ありがとう…。」

最近やけにそういうこと言うよね。

門倉なりに私を気遣ってくれてのことなんだろうけど、こいつはやっぱり天然タラシに違いない。

新しい恋をした時のために、女子がクラッと来ちゃうような台詞を私の反応で試してみてるのかも。

そんなことしても被験者が私じゃ参考にはならないと思うんだけど。

「門倉ってさぁ、天然って言われない?」

「いや、言われたことないけど。…ってか、むしろ天然は篠宮だろ?」

「私だって言われたことないけど。私のどこが?私は門倉みたいにタラシじゃないよ?」

「……そういうとこだよ。」



この間と同じように会社を出て小塚の店まで門倉と一緒に歩いた。

だけど今日はあの時と違って足取りが重い。

心なしか歩くペースがどんどん落ちていく気がする。

「篠宮、歩くの遅すぎ。」

「だってなんか…。」

緊張と不安で立ち止まってしまいそうになる私の手を門倉がギュッと握った。

「店に着くまで引っ張ってやるから頑張って歩け。」

「う…うん…。」

門倉の手は大きくて温かくて少しホッとした。

一緒に来てもらって良かったと思った。

もし私一人だったら、途中で逃げていたかも知れないから。

私の手を引いているのが何度も握り合った光の手じゃないことに少し違和感はあるけれど。







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