傷痕~想い出に変わるまで~
定時の後の休憩時間、喫煙室でタバコを吸っていると門倉がオイルライターの蓋をカチャカチャ鳴らしながらやって来た。

また何か考え事をしているんだろう。

仕事のことかな。

「よぅ篠宮、お疲れ。」

「お疲れ。」

門倉は私の隣に座ってタバコに火をつけた。

少し疲れた顔をしている。

「昨日、ちゃんと眠れたか?」

「うん…それなりに。」

「そうか。」

胸に深く吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出しながら、門倉はまたオイルライターの蓋をカチャカチャと開け閉めしている。

「なんにも知らないで無理につらい話聞かせて悪かったな。俺が思ってた以上に篠宮にとっては酷な話ばっかりだった。」

「うん…そうなんだけど、光が離れて行ったのは私にも責任があると思うから。知らずにいたら楽だったとは思うけど、私は知っておくべきだったのかなって思う。」

短くなったタバコを水の入った灰皿の中に投げ込んだ。

ジュッと音をたてて火が消える。


“俺、この先ずっと何年経っても瑞希と一緒にいたいよ”


ああ、まただ。

夏の終わりに二人で線香花火をした日の光の言葉と優しい顔を思い出した。

「門倉…私、もう一度光に会ってみようと思う。」

「会うこと勧めてた俺が言うのもなんだけど…大丈夫か?」

「うん。今度は逃げないでちゃんと話そうと思ってる。」

門倉にあまり心配かけたくなくて少し笑顔を作って見せた。

私はうまく笑えているかな。

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