傷痕~想い出に変わるまで~
通話を終えてスマホをポケットにしまい、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。

いきなり会うことになるとは思っていなかったから戸惑ってしまい、また鼓動が速くなる。

落ち着け、落ち着け。

とりあえず光と会うまでに少しでも落ち着かなくちゃ。

意味もなくあたふたして両手で顔を覆い、まっすぐ帰るつもりだったので化粧直しをしていないことに気付いた。

とりあえず…少しくらいは化粧を直しておこう。

別に光と会うからとかそんなんじゃなくたって、大人の女性の身だしなみとして当然だ。

門倉と飲みに行く時は化粧直しなんてしたことないけど。



喫煙室を出て化粧室で化粧直しをした後、時間を見計らって会社を出た。

まだ早いかと思ったのに、光は既に会社の前で待っていた。

「ごめん…待たせちゃった?」

「いや、今着いたところ。行こうか。」

「うん。」

並んで歩き出した二人の間には、あの頃にはなかった微妙な距離がある。

昔みたいに手を繋いで歩いたりはしないけれど、光が私の歩幅に合わせてくれているのがわかった。

「遅くまで仕事してお腹空いてるだろ?何食べたい?」

「何がいいかな…。光の食べたいものでいいよ。」

「じゃあイタリアンでいい?」

「うん。」

光と一緒に歩くのなんて何年ぶりだろう?

思ったより普通に会話ができていることにホッとした。

あんな別れ方をしたから何年も離れていたのに、こうしていると昔と変わらないような気がしてくる。

そんなのはもちろん気のせいだとわかっているけれど。



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