傷痕~想い出に変わるまで~
光が連れていってくれたのは、最近駅前にできたイタリアンレストランだった。

門倉を誘えと受付嬢に言ってやろうかと私がひそかに思っていた店だ。

光もこんなオシャレな店に連れて来る相手がいるのかな。

…なんて、私が気にすることじゃないか。

私たちはもうずっと前に離婚して他人同士になったんだから。

「ここの料理が美味しいって聞いてたから一度来てみたかったんだけど、なかなか機会がなくて。」

「そうなの?」

機会がなかったとは…?

時間がなかったのか、タイミングが合わなかったのか。

それとも一緒に来る相手がいなかったのか。

「瑞希はここに来たことある?」

「ないよ。若い女子たちが美味しかったって言ってたから気にはなってたんだけど。」

「じゃあ…一緒に来られて良かった。」

良かった…のか?

その相手が別れた嫁で本当に良かったと思ってる?

「光だったら、食事に誘う相手くらい周りにたくさんいるでしょう?」

思わずそんなことを口走った。

本当に可愛くないな、私は。

「他の誰かとじゃなくて…俺は瑞希と来たかったんだよ。」

……なんで?

恋人とか夫婦だった頃ならともかく、もうずっと前に別れた私と一緒に来たかったなんて台詞はおかしい。

会って食事をしたところで、これまでのことがすべてなかったことになるわけじゃないのに。

私が黙り込んでしまったことに困ったのか、光は作り笑いを浮かべて私にメニューを差し出した。

「料理、選ぼうか。」

「…うん。」

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