不器用な君へ。
はじまり


爽やかな秋の風が頬を撫でる、午前8時半。

私、藤宮暖燈は、齧りかけの食パンを咥え、ぐちゃぐちゃに乱れた髪を左手で抑えながら、まだ歩き慣れない住宅地前の歩道を全力疾走していた。

「はぁ...ッ!もお...やだぁっ...!」

両目にうっすらと浮かんだ涙を真新しい制服の袖で乱暴に拭いながら、私は必死に学校へと足を動かす。

セットする時間が無い上に風に吹かれて乱れきった自慢の黒髪。

当然ゆっくりメイクなんてしている暇はなく、白い肌はほぼスッピンだ。

昨日までは皺一つなかった真っ白な制服もぐちゃぐちゃで、その白さが私のみすぼらしさを引き立てているようにさえ感じる。

15分後には会うことになるであろう未来のクラスメイトの、汚い転校生への軽蔑の視線を想像すると、拭いたばかりの涙がまた溢れてきて、私は軽く自己嫌悪に陥った。

こんな時に、少女漫画お約束の「曲がり角でイケメンと衝突☆」的なイベントがあれば多少気分は救われるのに...そんな実現しようのない希望論を思い浮かべて現実逃避を試みる私を、ちらりと目に入った腕時計は実に簡単に現実世界へと引き戻してくれる。



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