不器用な君へ。

偶然

腕時計が示す今の時刻は、午前8時40分。
先生から貰った時間割表によると、一時間目が始まるのは8時45分だ。
あと5分...頑張れば間に合うかもしれない。
学校の校門はもう遠くに見えている。

転校初日から遅刻、という変人転校生お約束の展開になりたくないその一心で、悪目立ちするのが嫌いな私は、明日の確実な筋肉痛を見て見ぬふりしながら全力で走った。

校門はもう目の前。
がっちりと閉められたそれに向けて、思い切り助走をつけ...

ガンッ!
飛び上がった拍子にキーホルダーが鉄格子にぶつかり、五月蝿く揺れる。

タンっ。私はそのまま見事に着地を決め、小さくガッツポーズをとった。

「...おい」

不意に後ろから投げ掛けられた聞き慣れない声にびくっと肩が揺れ、心拍数が上昇する。
でも、このぶっきらぼうな言い方...他の誰かに話しかけたのだろう。

それにしても、この辺りに私以外に人なんて...

「お前に言ってんだよ、ボサボサ頭。聞こえないのか?」

...ボサボサ頭!?
悔しいけど、その通りだけど!
何この人!?私に言ってるの!?初対面だよ!?
文句の一つでも言ってやろうと振り返ると、そこに立っていたのは...

柔らかく風に揺れる茶髪に、すらりとした長身。
さっきの声も組み合わせると、この人は紛れもなく...

「...イケメン...」

「はあ?」

そう、そこに立っていたのは、声に出てしまうほどの超絶イケメン。
予想だにしなかった展開に頭がのぼせそうになるが、ふとさっきの言葉を思い出す。

『ボサボサ頭』
『お前』
『はあ?』

この、初対面の女子高生に言い放つにはあまりに酷すぎる言葉を、このイケメンは平然と言ってのけたのだ。

少し冷静になると、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。
こいつはきっとあれだ。
自分がイケメンだからって調子乗って周りに嫌われてるやつだ。

「なに突っ立ってんだよ。さっさと校門開けろっての」












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